・・・前回の続きです。
地震で取り壊すことになった実家の片付けに、片道3時間かけて通っていた私。
PR 広告
捨てるしかないと諦めていた大量のLPレコードを引き取ってくれる、という見習い古物商をブックオフのニイサンが教えてくれた。
雪がちらつく空が低い午後、件の古物商ゴトウくんが軽トラでやってきた。
ところがこのゴトウくん、もの凄い方向音痴。
すぐ近くから電話してくるのだが、なかなか我が家までたどりつけない。
私 「その目の前の公園を右です。そうしたら煉瓦色の屋根が見えますから」
ゴトウ 「わかりました。すぐ近くにいます。これから行きます」
玄関先で待っていたのだが、ものの一分とかからない距離なのにちっとも現れない。
ゴトウ 「あのう、さっきの・・公園ですよね、そこを曲がるんですよね、おかしいな~」
私 「右ですよ、右」
ゴトウ 「右・・ですよね? おかしいな~」
というようなやりとりが何回かあって、結局彼が家に来たのは最初の電話から30分後であった。
私もたいがいな方向音痴だが、私より酷くてしかも男、という人に会ったのは初めてだった。
このゴトウくん、家に来てからは寒い中を一人でてきぱきと手際よく動き、選んだレコードと、腰が抜けそうに重いどでかいスピーカーやらアンプやらも車に積み、これも、と言ってGIジョーのフィギアやらも引き取ってくれた。
受け取ったのはそれこそ大した金額ではなかったが、アンプやスピーカーなど引き取ってもらうだけでもいくらか払わされるご時世だ。
それに少しでも誰かの役にたつのならこんなに嬉しいことはない。
私の心は清々しかった。
PR 広告
問題は帰りだった。
2時間近くかかるゴトウくんの街と私が帰る母たちのいる街の方角は真逆であるにもかかわらず、この後車で家まで送っていってくれる、という。
田舎なので電車の本数は少ないし、片付けをしていた家は暖房も切れていた。
時間をつぶすのも大変だろうから、と親切に言ってくれたのだ。
こうして私とゴトウくんは、松本市から軽トラで田沢市に向かったのだが・・・。
嫌な予感は的中した。
昼間からちらついていた雪が本降りとなり、国道に出る頃にはもう何がなんだかさっぱりわからないほどの猛吹雪に。
川沿いの道をずっと進んでいくのだが、見渡す限り真っ白でガードレールの首までが雪に埋まっている。
ものの境界がまったくわからない。
のろのろと勘で進むしかなく、一歩間違えば川へ真っ逆さまだ。
さすがに車など一台も走っていない。
それに目も当てられないような方向音痴が二人、である。
「おっかないよ~ どっかはいりましょうよ、近くにドライブインなかったかな」
「大丈夫、こういうの慣れてますから」
ほんとかな~ なにせあの方向音痴だからな~
「大丈夫 大丈夫」
生きた心地がしなかったが、普段なら30分でつく道のりを1時間半かけて、なんとか田沢の家まで辿りつけた。
朝から作業をして、もう夜の9時近くだった。
二人とも碌にものも食べていないし、伊那までは普段でも2時間以上かかるから、この天候では無事帰れたとしても到着は深夜になる。
瞼を窪ませたゴトウくんは見るからに疲れていた。
こんなに疲れて空腹なまま、猛吹雪の中を運転させて事故ったりしたらそれこそ大変だ。
「何か食べていって下さい。そのうちに雪も小降りになるかもしれないし」
これから逆戻りして伊那に帰る、というゴトウくんをひきとめて家に寄ってもらった。
かくしてゴトウくんは、慌ててチンした鶏の唐揚げと味噌汁でお腹を満たして帰って行ったのだが、吹雪はいくらかましになったものの、雪は夜通し信州全域にしんしんと降り続いた。
翌朝電話を入れて無事に帰っていると聞き、ようやく私はほっとした。
こうして本とレコードを親切なニイサンたちに片付けてもらった我がボロ屋。
だが、私が1番大切なものがまだ見つかっていなかった。
愛しのピーコちゃんとマリちゃんだ。
うん十年前、私が3歳の時から弄り倒してぼろぼろにした人形たちである。
明日は絶対、あのガラクタの中から探し出してやろう、と思ったのだった。
以下・・・続く・・ → ニイサンたちありがとう! 3/4 ブックオフのニイサン
PR 広告